“慶應レスリング部五十周年”に寄せて

鈴木 徹

 我々、大学レスリング部生活の四年間の苦楽を共にした仲間は、小久保宣を中心に矢嶋賢三、杉村好敏、西山榮二、棚川穣、萩原一郎、和田良一、山本恵章、鈴木徹の九人であるが、忘れられない人に高校レスリング部以来の同志である畑中吾朗と廣瀬紀夫がいる。
 このメンバーが力を併せて苦楽を共にして来たからこそ、卒業して三十年近く過ぎた今も慶應レスリング部が我々の心の故郷であり、懐かしい忘れ得ぬ思い出となっているはずである。一般の人々が経験出来なかった厳しい訓練、そしてすばらしい先輩と後輩に恵まれた事が、社会人となってから、我々の誇りと自身の支えになって来た事を思うと、慶應レスリング部には感謝の気持で一杯である。


 昔を振返り特に思い出深い事は、鐘紡の先輩のご尽力により行われた、松阪・防府での夏合宿で、その苦しさは一・二年の我々にとってはまさに地獄の日々であったが、一方諸先輩の温かい歓迎会、慰労会、心のこもった差入れ、応援等、未だに忘れられない嬉しい事であった。
 又四年間に於る印象に残る試合としては、早稲田をリーグ戦、定期戦に於て三試合連続九対〇で勝った事、宿敵中央にリーグ戦に於て初めて勝った事等が挙げられるが、常に数多くの先輩の指導と応援が大きな力となっていた事を忘れてはならないと思う。
 しかし乍ら、現在のOBと学生選手との交流が、当時の関係をそのまま引継いでいるだろうか?試合、合宿、三田会総会等種々の行事にも、ほとんどのOBが集まらず、又最低の義務である三田会々費の集りも悪く、学生選手への援助資金にも事欠く現状であり、レスリング部創立五十周年を迎えた今日、更めてOB諸兄に訴える次第である。我々を育ててくれた慶應レスリング部に対し恩義と感謝の気持があるならば、“三田会費を全OBが納入しよう”“学生の試合・合宿に皆んなで応援に参加しよう”と云う事を。


 我々の故郷、慶應レスリング部および三田会の発展を心から願う次第である。
 最後に我々同期の仲間で今は亡き、和田良一、山本恵章両兄の御冥福を深くお祈り申上げたい。

(昭和32年卒)

『慶応義塾體育會レスリング部五十年史』(昭和61年刊行)より